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北崎拓 名作SF『冬のセリカ』『DEM』

へろんです。
今の世の中、何か分からないことや知らないことがあればすぐネットで調べられる、何でもネットに載っている、みたいな風潮があります。しかしその一方で、どうしてもネットには出てこない情報もあります。
例えば以前の記事でも触れました、1993年5月に訪れたものの、どこかの時点で無くなったと思われる、高知県桂浜に存在した貝類博物館

桂浜にあった「シェルパレス」入館券
2019年1月の高知旅行前に、ネット上でいくら調べても何一つ情報がありませんでした。

考えれば当たり前ですが、ネットが普及する前の物事というのは、誰かがネットにアップしなければ、ネット上に存在しません。
今やネット上に存在しなければまるで存在していなかったかのような風潮まであって、それもいかがなものかと思いますが、ネット上であまり見かけないものも、こうして紹介することにより認知度が上がってもらえれば嬉しく思います。

       *      *      *

漫画家の北崎 拓先生(1966~)といえば、どのような代表作を挙げられますでしょうか?
よく知られる代表作はSFではないはずですので(私がSF以外はほとんど読まなかったので、実はほとんど未読のため「はず」などと書いています)、北崎 拓先生のことをSF漫画家だという人は、おそらくおられないでしょう。

ただワタクシ的に北崎 拓先生の名前が強烈に印象に残ったのは、タイトルの『冬のセリカ』というSF短編に出会ったためです。
『冬のセリカ』についてネット上でさんざん調べましたが、ただ一ヶ所、作家別コミックリスト【北崎 拓編】というページにだけ、『空色みーな』全5巻 (ラポートコミックス)の第5巻に収録されているという情報が載っているだけでした。

1986年(昭和61年)と今から30年以上前、「SF BOX」と銘打って発売された、小学館の少年ビッグコミック 1月17日増刊号。

少年ビッグコミック 1986年1月17日増刊号「SF BOX」
「ショッキング・ファンタジー・ボックス」なんて奇をてらった振り仮名をつけていますが、一般的に言うSF作品を中心に集めた増刊号です。特に気に入った作品だけを切り取って保管しましたので、他にどんな作品が載っていたかは今となっては覚えていないのですが、保管したお気に入り作品の一つが、『冬のセリカ』でした。

主人公の工藤ゆたかは両親が海外に行ってしまい、「見放された」と思って不良になってしまった中学3年生。
ある時突然、「パパー」と呼びかけてくる幼女セリカにまとわりつかれてしまいます。ガールフレンドや、迷子と思って連れて行った交番のお巡りさんにも「さては隠し子か!?」と誤解されますが……(笑)

実はセリカはある異世界の住人で、その異世界は重大な問題に直面しており、ゆたかのもとに逃げてきたのでした。
ゆたかの前に姿を現した異世界の存在はその事情を語り、セリカを連れ戻そうとします。抗えないと悟ったゆたかは、セリカに語り掛けます。

「セリカ……お前は何も心配しなくていいから……オレ、一生懸命勉強して……エラくなって……すごくエラくなって……」

自分が偉くなって、セリカのいる異世界が直面している問題を解決する。そう決心したゆたかは、別れの瞬間叫びます。

「だから! お前の帰る世界にも青い空はあるんだ!!」

ゆたかの最後の決心には泣かされます。
政界や、企業や、大学などで「エラくなった」皆さん! あなた方は何のためにエラくなったんですか!? どんな理想を持っていたんですか!? その時の気持ちは、今も生き続けていますか!?
そう心の底から叫びたくなってしまう作品です。
ぜひとも注目されてほしい、再掲や映像化などがされてほしい名作です。

もう一つ、北崎先生のSFが収録されているのが『北崎 拓 選集1』(小学館、1985)。

「北崎 拓 選集1」(1985)

『むく毛のアン』『英雄行進曲』『未完成ストリート』『DEM』(前編・後編)を収録。
どれも好きな作品で、『英雄行進曲』などは映画好きや映像に関わる方などにはお勧めの名作です。この中では『DEM』が唯一のSFです。

この作品で描かれるのは、機械にとりついて人間までも機械化してしまう宇宙生命体「DEM」と人類との存亡をかけた戦いですが、DEM化した人間と戦う中で、果たしてDEMと人間の違いは何なのか、DEMは排斥すべきか、共存できるのではないかという疑問も提示されます。しかし東京で最終兵器を発動させてしまい、そんな疑問も吹き飛ばされてエンディングへとなだれ込みます。短編ゆえにそうした疑問を突き詰める間もなかったと言えるかも知れませんので、ぜひ長編化や映画化されても良い作品だと思います。
余談ですが、最終兵器発動により新宿ビル群(まだ東京都庁がない!)が吹き飛ばされる見開きページにインスパイアされて、中編漫画を一編書いてみたりしたのは前世紀の昔話(笑)。

一般にSF作家と言われない先生方の作品の中にも、SFや境界作品がたくさんあると思います。こうした作品がもっともっと知られるようになってほしいものですね。

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Author:へろん
へろん(♂)としろ(♀)の夫婦ですが、最近はへろん一人で書いてます。「御朱印」「SF」が多くなってますので、カテゴリからご興味のあるジャンルをお選び下さい。古い記事でもコメント頂けると喜びます。拍手コメントは気付くのが遅れてしまうことがありますが、申し訳ございません m(_ _)m

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