映画『薬の神じゃない!』
へろんです。
2020年秋は妻の希望でいくつかの映画につき合いましたが、映画館の広告でふと目に止まった『薬の神じゃない!』という中国映画。

今秋でははじめて「この映画、ちょっと観てみたい」と私の意志で観ることにしたのがこの作品なのですが。
これが実際に観てみますと、生まれてこの方今まで観た映画の中ではトップクラスというぐらい、私にとっては大当たりの映画でした。
以下、『薬の神じゃない!』公式サイトよりのあらすじ引用です。
* * *
上海で、男性向けのインドの強壮剤を販売する店主 チョン・ヨン(程勇)は、店の家賃さえ払えず、妻にも見放され、 人生の目標を見失っていた。ある日、「血液のがん」である 慢性骨髄性白血病を患うリュ・ショウイー(呂受益) が店に訪れる。国内で認可されている治療薬は非常に高価であるため、安価で成分が同じインドのジェネリック薬を購入して欲しいという依頼だった。最初は申し出を断ったものの、 金に目がくらんだ程勇は、ジェネリック薬の密輸・販売に手を染め、より多くの薬を仕入れるため白血病患者たちとグループを結成。依頼人の呂を始め、白血病患者が集まるネットコミュニティ管理人のリウ・スーフェイ(劉思慧)、中国語なまりの英語を操る劉牧師、不良少年のボン・ハオ(彭浩)が加わり、事業はさらに大きく拡大していく。しかし、警察に密輸として目をつけられ始め、一度はグループを解散した程勇だったが、薬を絶たれた患者たちの悲痛な叫びに決意を固める。患者の負担を軽くするため仕入れ値以下の価格で薬を売り、あえて危険な仕事を続ける彼に待ち受ける結末とは・・・。
* * *
最初は金目当て(といっても病気の父のためだったりとその理由は納得できるものですが)だった密輸が、やがて困窮する患者たちのために、と奔走するようになる主人公たち。単純に法にのっとって取り締まろうとする警察への患者たちの叫び。主人公たちに寄せられる人々の感謝。
しかし、警察の捜査や国際的圧力までもがかかり始めます。
物語終盤、主人公チョンは自分が差額を負担してでも、そして上海以外の患者たちにも、可能な限りの薬を原価で提供しようとします。
それはまさに、手持ちの弾を一発残らず込め、全力を賭した最終決戦に打って出るかのごとき姿でした。
そしてラスト近く、最後の戦いに挑んだチョンに感謝と敬意を示すため、大勢の患者たちが集まってきます。その人々の中に、チョンは物語の途中で死んでしまった仲間たちの姿をも垣間見ます。
これはもうあれですね、『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(1978)で最後の戦いに挑む古代の元に、生きている仲間も死んでしまった仲間もともに現れて一緒に行こう、というあのシーンを彷彿とさせます。本作品はあの時以上に泣かされました。
この作品は、2014年に中国で実際に起きた、未承認のジェネリック医薬品を密輸した「陸勇事件」が元になっています。
ただちょっと気になるのが、公式サイトですら「実際に起きたニセ薬事件」と間違った表現をしていること。
「陸勇事件」で問題となったのは、インド製のジェネリック医薬品であって、決して「ニセ薬」ではありませんでした。
当たり前だけど「ジェネリック薬」と「ニセ薬」は明確に違います!!
ここを押さえておかないと、この映画の真価は伝わりません。
映画ではスイスの製薬会社が販売している「グリニック」という治療薬が高価過ぎるということで問題になりますが、現実の「陸勇事件」では、やはりスイスの製薬会社ノバルティスが販売する「グリベック」でした。映画でも現実でも、いずれもインド製のジェネリック医薬品を試したところ、症状が改善します。つまり「ニセ薬」ではなかったのです。だからこそ、患者たちのためにと主人公は奔走し、患者たちは大きな感謝と敬意を寄せていくようになります。
(ただ当時の中国では、たとえ効果のある薬でも当局が未承認ならば「偽薬」とみなす、とされていたようで、だから「ジェネリック薬」と「ニセ薬」をごっちゃにするような記事が氾濫しているのでしょうが……)
ただ一応触れておきますと、映画では高額な正規薬を販売するスイスの製薬会社が「悪者」になっていますし、現実でも実際に正規薬は高すぎた問題があったようです。この場合はともかく、一般に正規薬が(特許が有効な間だけ)高い薬価を認められるのは、そうやって莫大な開発費を回収しなければならないという事情もあるわけで、すべて正規薬が悪でジェネリックが正義、ということでは決してないわけで……(大切なことは適切な薬価と適切な保険適用、なわけですが、これがまた難しいところですね)
それと、「陸勇事件」および映画で登場するジェネリック薬は、実際に効果のある「本物」でした。ただ海外も含めた世の中すべてのジェネリック薬が正規薬と同じ効果があるか、というと、そこは100%断言できる人はいないのが現状です。
日本ではジェネリックを選ぶかどうか最終的には自己責任にされているのも、そこら辺が一因になっています。
(もう一つ追記すると、日本のジェネリックは特許切れになったから製造できるのですが、インドのジェネリックは特許制度の違いからくるもので、少し意味合いが違うようです。正規薬の高価さから、かの「国境なき医師団」はインド製ジェネリックに頼らざるを得ないそうです)
* * *
本作の評で「『パラサイト 半地下の家族』を想起させるほどの出来栄え」などと書いているサイトも見かけましたが、ちょっと待ってほしい。
2020年公開時に妻の付き合いで観たものの、『パラサイト』は登場人物が一人残らず不幸になるという、近年まれに見る気分の悪い映画でした。お金を払って徹底的に後悔した、数少ない映画でした。
あれが気にいった、という方がおられましたら、ごめんなさい。だけど素直にそう感じる者もいた、ということは知っておいて頂きたい。
最初に映画館で『薬の神じゃない!』の宣伝を見た時、もしかして『パラサイト』のようなヤツじゃないか、と思って警戒したのですが、いくつかの紹介記事を見ていくうちに、どうやら実話を元にした人間味あふれる話だ、ということが分かってきました。
そして実際に観て、大正解でした。
中国には検閲があり社会批判、体制批判はまず許されない、というイメージですが、こちらの記事によると中国共産党ナンバー2の李克強首相が「『薬の神じゃない!』は社会問題を提起し、社会を進歩させた。このような作品が、もっと製作されてほしい」と述べた、というのも驚きです。
2020年10月16日から日本での公開が始まっていましたが、観たのが11月中旬だったため、残念ながらそろそろ公開も終了間近のようです(22日現在、東京や北海道など一部で上映中、少し先に青森や静岡などで上映予定)。しかしこれから先どこかでマイナー上映されたりテレビ等他のメディアで取り上げられることがあるかも知れません。そんな機会がありましたら、ぜひお勧めしたい作品です。
2020年秋は妻の希望でいくつかの映画につき合いましたが、映画館の広告でふと目に止まった『薬の神じゃない!』という中国映画。

今秋でははじめて「この映画、ちょっと観てみたい」と私の意志で観ることにしたのがこの作品なのですが。
これが実際に観てみますと、生まれてこの方今まで観た映画の中ではトップクラスというぐらい、私にとっては大当たりの映画でした。
以下、『薬の神じゃない!』公式サイトよりのあらすじ引用です。
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上海で、男性向けのインドの強壮剤を販売する店主 チョン・ヨン(程勇)は、店の家賃さえ払えず、妻にも見放され、 人生の目標を見失っていた。ある日、「血液のがん」である 慢性骨髄性白血病を患うリュ・ショウイー(呂受益) が店に訪れる。国内で認可されている治療薬は非常に高価であるため、安価で成分が同じインドのジェネリック薬を購入して欲しいという依頼だった。最初は申し出を断ったものの、 金に目がくらんだ程勇は、ジェネリック薬の密輸・販売に手を染め、より多くの薬を仕入れるため白血病患者たちとグループを結成。依頼人の呂を始め、白血病患者が集まるネットコミュニティ管理人のリウ・スーフェイ(劉思慧)、中国語なまりの英語を操る劉牧師、不良少年のボン・ハオ(彭浩)が加わり、事業はさらに大きく拡大していく。しかし、警察に密輸として目をつけられ始め、一度はグループを解散した程勇だったが、薬を絶たれた患者たちの悲痛な叫びに決意を固める。患者の負担を軽くするため仕入れ値以下の価格で薬を売り、あえて危険な仕事を続ける彼に待ち受ける結末とは・・・。
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最初は金目当て(といっても病気の父のためだったりとその理由は納得できるものですが)だった密輸が、やがて困窮する患者たちのために、と奔走するようになる主人公たち。単純に法にのっとって取り締まろうとする警察への患者たちの叫び。主人公たちに寄せられる人々の感謝。
しかし、警察の捜査や国際的圧力までもがかかり始めます。
物語終盤、主人公チョンは自分が差額を負担してでも、そして上海以外の患者たちにも、可能な限りの薬を原価で提供しようとします。
それはまさに、手持ちの弾を一発残らず込め、全力を賭した最終決戦に打って出るかのごとき姿でした。
そしてラスト近く、最後の戦いに挑んだチョンに感謝と敬意を示すため、大勢の患者たちが集まってきます。その人々の中に、チョンは物語の途中で死んでしまった仲間たちの姿をも垣間見ます。
これはもうあれですね、『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(1978)で最後の戦いに挑む古代の元に、生きている仲間も死んでしまった仲間もともに現れて一緒に行こう、というあのシーンを彷彿とさせます。本作品はあの時以上に泣かされました。
この作品は、2014年に中国で実際に起きた、未承認のジェネリック医薬品を密輸した「陸勇事件」が元になっています。
ただちょっと気になるのが、公式サイトですら「実際に起きたニセ薬事件」と間違った表現をしていること。
「陸勇事件」で問題となったのは、インド製のジェネリック医薬品であって、決して「ニセ薬」ではありませんでした。
当たり前だけど「ジェネリック薬」と「ニセ薬」は明確に違います!!
ここを押さえておかないと、この映画の真価は伝わりません。
映画ではスイスの製薬会社が販売している「グリニック」という治療薬が高価過ぎるということで問題になりますが、現実の「陸勇事件」では、やはりスイスの製薬会社ノバルティスが販売する「グリベック」でした。映画でも現実でも、いずれもインド製のジェネリック医薬品を試したところ、症状が改善します。つまり「ニセ薬」ではなかったのです。だからこそ、患者たちのためにと主人公は奔走し、患者たちは大きな感謝と敬意を寄せていくようになります。
(ただ当時の中国では、たとえ効果のある薬でも当局が未承認ならば「偽薬」とみなす、とされていたようで、だから「ジェネリック薬」と「ニセ薬」をごっちゃにするような記事が氾濫しているのでしょうが……)
ただ一応触れておきますと、映画では高額な正規薬を販売するスイスの製薬会社が「悪者」になっていますし、現実でも実際に正規薬は高すぎた問題があったようです。この場合はともかく、一般に正規薬が(特許が有効な間だけ)高い薬価を認められるのは、そうやって莫大な開発費を回収しなければならないという事情もあるわけで、すべて正規薬が悪でジェネリックが正義、ということでは決してないわけで……(大切なことは適切な薬価と適切な保険適用、なわけですが、これがまた難しいところですね)
それと、「陸勇事件」および映画で登場するジェネリック薬は、実際に効果のある「本物」でした。ただ海外も含めた世の中すべてのジェネリック薬が正規薬と同じ効果があるか、というと、そこは100%断言できる人はいないのが現状です。
日本ではジェネリックを選ぶかどうか最終的には自己責任にされているのも、そこら辺が一因になっています。
(もう一つ追記すると、日本のジェネリックは特許切れになったから製造できるのですが、インドのジェネリックは特許制度の違いからくるもので、少し意味合いが違うようです。正規薬の高価さから、かの「国境なき医師団」はインド製ジェネリックに頼らざるを得ないそうです)
* * *
本作の評で「『パラサイト 半地下の家族』を想起させるほどの出来栄え」などと書いているサイトも見かけましたが、ちょっと待ってほしい。
2020年公開時に妻の付き合いで観たものの、『パラサイト』は登場人物が一人残らず不幸になるという、近年まれに見る気分の悪い映画でした。お金を払って徹底的に後悔した、数少ない映画でした。
あれが気にいった、という方がおられましたら、ごめんなさい。だけど素直にそう感じる者もいた、ということは知っておいて頂きたい。
最初に映画館で『薬の神じゃない!』の宣伝を見た時、もしかして『パラサイト』のようなヤツじゃないか、と思って警戒したのですが、いくつかの紹介記事を見ていくうちに、どうやら実話を元にした人間味あふれる話だ、ということが分かってきました。
そして実際に観て、大正解でした。
中国には検閲があり社会批判、体制批判はまず許されない、というイメージですが、こちらの記事によると中国共産党ナンバー2の李克強首相が「『薬の神じゃない!』は社会問題を提起し、社会を進歩させた。このような作品が、もっと製作されてほしい」と述べた、というのも驚きです。
2020年10月16日から日本での公開が始まっていましたが、観たのが11月中旬だったため、残念ながらそろそろ公開も終了間近のようです(22日現在、東京や北海道など一部で上映中、少し先に青森や静岡などで上映予定)。しかしこれから先どこかでマイナー上映されたりテレビ等他のメディアで取り上げられることがあるかも知れません。そんな機会がありましたら、ぜひお勧めしたい作品です。
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