2019年映画その1『アルキメデスの大戦』
へろんです。
今年2019年は、いずれも妻の希望でめずらしく映画を立て続けに3本鑑賞し、しかもどれもワタクシ的に高評価だった、映画“豊作”の年となりました。
その3本とは『アルキメデスの大戦』、『僕のワンダフル・ジャーニー』、『HELLO WORLD(ハロー・ワールド)』。
例によってそれがSFカテゴリかよ、と言われそうなものもありますが、立派にSFと共通するネタのちりばめられた作品だと思います。
* * *
まずは邦画『アルキメデスの大戦』。
あの超弩級戦艦《大和》建造にまつわる架空のドラマで、いわゆる歴史改変SFに近い要素があります。

1933年、軍拡路線を突き進む大日本帝国では、巨大戦艦《大和》の建造計画が進められていた。しかし海軍少将・山本五十六は、これからは巨大戦艦よりも航空母艦の時代であると考え、これに反対していた。山本少将は、巨大戦艦建造は戦争への危機を増大させる、と天才数学者の櫂直(かい ただし)を説得し、《大和》建造計画の予算に隠された不正を追及させる。
櫂の努力で予算の矛盾と設計上の問題が暴かれるが、推進派の平山中将はなぜ《大和》を建造するかの真意を語る。そして《大和》反対派の山本少将の真意は……。
この作品には実は原作の漫画があり、たまにパラパラと立ち読みして大雑把なストーリーは把握していました。しかし、主人公の櫂は映画版では天才肌の変わり者、ですが、原作では何でもかんでもできる異常なまでの切れ者で、そのためかえって人間味の乏しい、人としては薄っぺらい存在に感じていました。またあの《大和》になんと誘導ロケット弾を搭載しようという、架空物にしてもそこまでぶっ飛ばすか、というトンデモ話になってきて、途中からあまり読まなくなっていました。
そのため、この映画も当初はそれほど期待していなかったのですが……
映画版はそうした原作の荒唐無稽な部分をうまく削り、史実に近い形でうまくまとめられていたと思います。また航空機開発やら国際情勢やらてんこ盛りで混沌としている原作に比べて、《大和》建造のみに絞ったため分かり易く、テーマを際立たせることに成功しているようです。
一つ知りたいのは、本作のクライマックスを支えるネタである、軍艦の鉄の総量と建造費の関係式……これは現実にあるんですかね? 櫂を演じた俳優さんは、その複雑怪奇な数式をきちんと記憶して、作中で正確に板書してみせたとか、そのシーンは数学の専門家が監修したのだというエピソードを見ると、本当にあるのかなあ、と思うのですが……ある程度の相関関係はあるのでしょうが、細かい数字までぴたりと当てるのは、ちょっと無理ではないかと思うのですが。
さて、戦艦《大和》建造予算の不正を暴き、建造を阻止することで、戦争の危機を回避しようとした櫂ですが……史実の通り、作中でも《大和》は建造されます。映画の冒頭で《大和》が撃沈される最後の戦いが描かれていることから、そのことが分かります。
建造推進派の平山中将が櫂に語った《大和》を建造する理由、そして櫂に求めたこと……それに対して櫂がどう答えたのかは描かれていません。しかし《大和》が建造されたということは、結局櫂は平山中将の求めに応じたのか……!? だとすれば、それまで櫂が大勢の人を巻き込んでまで努力してきたのは、何だったのか!? 平山中将の言葉に、納得したのか!?
平山中将の真意、なぜ《大和》を建造しなければならないか、というその理由は、分からなくもない。しかし、それは絶対に認められる考え方ではない。1945年4月7日、《大和》は無謀な作戦の果てに撃沈され、2740名が戦死したとされています。その人々にとって、また残された人々にとって、決して受け入れられるものではありません。
平山中将の求めに櫂がどう答えたか、そこが描かれなかったのは、たぶんこの映画を作った人々にも答えられなかったから、ではないか。平山中将の考えも分からなくもない。しかし認められるものでもない。そこで作中の櫂と同様に、固まってしまったのではないか……
そう思っていました。しかし後からパンフレットを読み返してみると、山崎監督がこう述べていたのです。
「これは櫂が大和を作らせないようにする話だから、櫂を説得して、大和を作る側に転ばせないといけなかった」「櫂自身が複雑な思いを抱えながら、大和は作るべきだという人に変わるようにしたかった」
結局、櫂は平山中将の求めに応じるどころか、推進派に変わってしまうのか……!?
そりゃあ《大和》を完全自動の無人艦にするとか、ぶっ飛んだことを考えるならそれでもいいでしょう(案外原作のトンデモ話で出てきたりして)。
平山中将の言うそんな理由だけで(本当は話を分かり易くするためにそれだけになったのであって、他にもあったのかも知れませんが)建造した、というのなら、お前らだけで乗り組んで行け!! と叫びたくなります。
確かに世の中には答えの出ないものもあります。どちらにも一理ある、というのも数多くあります。
しかし、ここは最後まで否定してほしかった。たとえ結局は建造されるとしても、フィクションだからこそ、理想を貫いてほしかった。
そして非戦派のはずの山本少将が、戦争について熱く語り、上官である永野中将から「君も軍人なんだな」と言われるシーン。山本少将を演じた館ひろし氏も「あそこは悲しいシーンですね」と述べておられます。戦争という暗いエンディングへ向けて突き進む中で、館氏の感想は唯一の救いのようにも感じられます。

広島県呉市の大和ミュージアムに展示される、1/10の《大和》模型。
《大和》が建造され、戦争で大勢の人々とともに失われるという悲劇は、紛れもない史実です。この映画でも結局史実と同じ結末になってしまう、その経緯に不満を感じて長々と書いてしまいましたが、映画全体としてはワタクシ的に高評価の作品です。
ただ、せっかくのフィクションなのですから、たとえ史実と同じになるとしても、主人公たちにはあと一歩、もう一歩史実に立ち向かう姿を見せてほしかったと思います。
関連しそうな記事(^^;)
奈良県天理市・大和神社
映画『宇宙戦艦ヤマト2202 第七章 新星篇』感想
今年2019年は、いずれも妻の希望でめずらしく映画を立て続けに3本鑑賞し、しかもどれもワタクシ的に高評価だった、映画“豊作”の年となりました。
その3本とは『アルキメデスの大戦』、『僕のワンダフル・ジャーニー』、『HELLO WORLD(ハロー・ワールド)』。
例によってそれがSFカテゴリかよ、と言われそうなものもありますが、立派にSFと共通するネタのちりばめられた作品だと思います。
* * *
まずは邦画『アルキメデスの大戦』。
あの超弩級戦艦《大和》建造にまつわる架空のドラマで、いわゆる歴史改変SFに近い要素があります。

1933年、軍拡路線を突き進む大日本帝国では、巨大戦艦《大和》の建造計画が進められていた。しかし海軍少将・山本五十六は、これからは巨大戦艦よりも航空母艦の時代であると考え、これに反対していた。山本少将は、巨大戦艦建造は戦争への危機を増大させる、と天才数学者の櫂直(かい ただし)を説得し、《大和》建造計画の予算に隠された不正を追及させる。
櫂の努力で予算の矛盾と設計上の問題が暴かれるが、推進派の平山中将はなぜ《大和》を建造するかの真意を語る。そして《大和》反対派の山本少将の真意は……。
この作品には実は原作の漫画があり、たまにパラパラと立ち読みして大雑把なストーリーは把握していました。しかし、主人公の櫂は映画版では天才肌の変わり者、ですが、原作では何でもかんでもできる異常なまでの切れ者で、そのためかえって人間味の乏しい、人としては薄っぺらい存在に感じていました。またあの《大和》になんと誘導ロケット弾を搭載しようという、架空物にしてもそこまでぶっ飛ばすか、というトンデモ話になってきて、途中からあまり読まなくなっていました。
そのため、この映画も当初はそれほど期待していなかったのですが……
映画版はそうした原作の荒唐無稽な部分をうまく削り、史実に近い形でうまくまとめられていたと思います。また航空機開発やら国際情勢やらてんこ盛りで混沌としている原作に比べて、《大和》建造のみに絞ったため分かり易く、テーマを際立たせることに成功しているようです。
一つ知りたいのは、本作のクライマックスを支えるネタである、軍艦の鉄の総量と建造費の関係式……これは現実にあるんですかね? 櫂を演じた俳優さんは、その複雑怪奇な数式をきちんと記憶して、作中で正確に板書してみせたとか、そのシーンは数学の専門家が監修したのだというエピソードを見ると、本当にあるのかなあ、と思うのですが……ある程度の相関関係はあるのでしょうが、細かい数字までぴたりと当てるのは、ちょっと無理ではないかと思うのですが。
さて、戦艦《大和》建造予算の不正を暴き、建造を阻止することで、戦争の危機を回避しようとした櫂ですが……史実の通り、作中でも《大和》は建造されます。映画の冒頭で《大和》が撃沈される最後の戦いが描かれていることから、そのことが分かります。
建造推進派の平山中将が櫂に語った《大和》を建造する理由、そして櫂に求めたこと……それに対して櫂がどう答えたのかは描かれていません。しかし《大和》が建造されたということは、結局櫂は平山中将の求めに応じたのか……!? だとすれば、それまで櫂が大勢の人を巻き込んでまで努力してきたのは、何だったのか!? 平山中将の言葉に、納得したのか!?
平山中将の真意、なぜ《大和》を建造しなければならないか、というその理由は、分からなくもない。しかし、それは絶対に認められる考え方ではない。1945年4月7日、《大和》は無謀な作戦の果てに撃沈され、2740名が戦死したとされています。その人々にとって、また残された人々にとって、決して受け入れられるものではありません。
平山中将の求めに櫂がどう答えたか、そこが描かれなかったのは、たぶんこの映画を作った人々にも答えられなかったから、ではないか。平山中将の考えも分からなくもない。しかし認められるものでもない。そこで作中の櫂と同様に、固まってしまったのではないか……
そう思っていました。しかし後からパンフレットを読み返してみると、山崎監督がこう述べていたのです。
「これは櫂が大和を作らせないようにする話だから、櫂を説得して、大和を作る側に転ばせないといけなかった」「櫂自身が複雑な思いを抱えながら、大和は作るべきだという人に変わるようにしたかった」
結局、櫂は平山中将の求めに応じるどころか、推進派に変わってしまうのか……!?
そりゃあ《大和》を完全自動の無人艦にするとか、ぶっ飛んだことを考えるならそれでもいいでしょう(案外原作のトンデモ話で出てきたりして)。
平山中将の言うそんな理由だけで(本当は話を分かり易くするためにそれだけになったのであって、他にもあったのかも知れませんが)建造した、というのなら、お前らだけで乗り組んで行け!! と叫びたくなります。
確かに世の中には答えの出ないものもあります。どちらにも一理ある、というのも数多くあります。
しかし、ここは最後まで否定してほしかった。たとえ結局は建造されるとしても、フィクションだからこそ、理想を貫いてほしかった。
そして非戦派のはずの山本少将が、戦争について熱く語り、上官である永野中将から「君も軍人なんだな」と言われるシーン。山本少将を演じた館ひろし氏も「あそこは悲しいシーンですね」と述べておられます。戦争という暗いエンディングへ向けて突き進む中で、館氏の感想は唯一の救いのようにも感じられます。

広島県呉市の大和ミュージアムに展示される、1/10の《大和》模型。
《大和》が建造され、戦争で大勢の人々とともに失われるという悲劇は、紛れもない史実です。この映画でも結局史実と同じ結末になってしまう、その経緯に不満を感じて長々と書いてしまいましたが、映画全体としてはワタクシ的に高評価の作品です。
ただ、せっかくのフィクションなのですから、たとえ史実と同じになるとしても、主人公たちにはあと一歩、もう一歩史実に立ち向かう姿を見せてほしかったと思います。
関連しそうな記事(^^;)
奈良県天理市・大和神社
映画『宇宙戦艦ヤマト2202 第七章 新星篇』感想
スポンサーサイト